北海道大学 三澤弘明
 

 光科学技術はこれまで学際的な交流によって他分野に様々な新しい研究手法を提供し、その発展を促進してきたことが広く認知されています。たとえば、ノーベル賞受賞者の小柴昌俊氏による宇宙ニュートリノの検出などの基礎科学や、田中耕一氏によるレーザーを利用したタンパク質の質量分析技術の開発研究など、基礎から応用に至る世界トップレベルの研究を光科学技術が支えてきたことからも明らかであり、今後も種々の科学技術のパラダイムシフトの誘導や産業におけるイノベーションを支える基盤技術として重要であることを示しています。

 他方、北海道の産業構造(平成14年)は、第1次産業が3.5%、第2次産業が19.9%、第3次産業が80.5%となっており、第2次産業の割合が全国の27.4%に比べて低く、とりわけ、製造業の割合は9.7%と全国の20.4%に比べ大幅に低くなっています。また、本道の製造業は全国に比べて食料品、木材、木製品、窯業、土石といった地方資源型の割合が高く、電気機械や輸送用機械などの加工組立型の割合が低い状況にあります。北海道が強固な経済基盤を確立し、今後力強く発展するためには、科学技術立国たる我が国を支える「ものづくり技術」の振興を強力に推し進めることが必要不可欠です。近年、北海道の新規産業育成の施策の一つとしてバイオ関連産業、およびIT産業の振興が進められ順調に進展しています。これらの新産業が北海道の基幹産業としてより大きく成長するためには、これらを支えるものづくり基盤技術の成熟と各産業を融合する分野横断的な技術分野の確立が必要となります。また、現在、北海道が進める自動車産業などのものづくり産業の誘致も、その裾野を道内でより大きく広げるためには、北海道発の分野横断的な独創的な新産業分野の発展が不可欠です。

 先に述べた「光科学技術」は、まさにこのようなものづくり産業を含めた様々な産業を融合する基盤技術となりうるものです。特に北海道地域は大学を中心に光科学技術の知の創造が進められてきています。たとえば、北海道大学には独立行政法人科学技術振興機構のCRESTプロジェクトにおいて光科学技術関連の研究プロジェクトを独立に推進する4名の研究代表者がおり、先導的研究による知の創造を進めています。

 また、昨年、北海道大学には国際的なバイオイメージングの拠点となるニコンバイオイメージングセンターが米国ハーバード大学、ドイツハイデルベルグ大学に続き、世界で3番目の寄付講座として設立されるなど、北海道大学の持つ光科学技術の研究ポテンシャルは国内外で高く評価されています。また、千歳科学技術大学においても光科学技術に関する高いレベルの研究が行われており、「次世代情報通信の高速広帯域伝送システム用光デバイスの開発」が平成18年度の地域新生コンソーシアム研究開発事業(経産省)に採択されています。このような北海道大学、千歳科学技術大学を始め、室蘭工大、北見工大など、北海道には「光科学技術」に関する基礎・応用研究を展開する大学が多く存在しています。このような環境は、既存の研究分野の枠を越え、課題解決に必要な研究者の知恵が自在に結集されることによって可能となる新規研究開発を促進する十分な力を地域が有していることを示しています。また、新規事業・新規産業を創出する上で極めて重要な牽引力となる異分野間の知的な触発や融合を強く促す環境でもあり、国内の他地域には類をみない大きな特長であるといっても過言ではないでしょう。

 北海道の恵まれた環境を活かしつつ、産業構造の転換を進め、持続可能な経済発展を図るためには、道内にある優れた光科学技術に関する知の蓄積・創造を地域産業振興に還元し、ものづくりを始めとする道内のバイオ関連産業やIT産業などの様々な産業の競争力強化を進めることが急務であります。たとえば、バイオ関連産業においては、医療や生命科学の研究開発にますます重要となっているバイオイメージングに必要な高品位蛍光プローブの開発やそれを利用した高精度画像計測機器の開発、IT産業においては、先導的な量子暗号や量子情報通信の開発による独創的産業技術の創出、また、ものづくりでは、自動車産業に不可欠な高品位レーザー切断・溶接装置の開発、さらにはデジタル家電や携帯電話など広汎に利用される半導体のレーザーダイシングやレーザーナノ加工技術など、地域の持つ高度な光科学技術を種々の産業を結びつける横断的な技術とすることにより、国際的な競争力を有する新たな産業の育成を図ることができるものと考えられます。

 現在、道内においてこれら光科学技術に関する分野横断的な取り組みはなされておらず、研究者個人や個々の民間企業が個別的に取り組んでいるというのが現状です。上述した「光科学技術」を背景とした新たな産業育成を図るためには、北海道における産・官・学の連携による研究の情報交換が必要不可欠です。本研究会の設立は、国内外の研究情報交換、および産・官・学の共同研究体制の基礎作りを推進することを目的とするとともに、既存事業の発展と新事業・新産業の創出に資する研究プロジェクトの立ち上げも同時に目指します。